皆さん、こんにちは。
本ブログは行動経済学を実際のビジネスに適用していくことを主目的としています。
行動経済学の理論を中心に、行動心理学や認知心理学などの要素も交え、ビジネスの様々なシーンやプロセス、フレームワークに適用し、実践に役立てていきたいと思っています。
創業101年を迎えるオーダースーツのSADAが、2024年7月期に過去最高の売上高を達成したそうです。
SADAが成功を収めるまでに採用してきた数々のマーケティング戦略は、現代の消費者行動やビジネス環境の変化に見事に適応しており、特に中小企業や他の同業他社にとって学ぶべき多くのポイントを提供しています。
筆者は以前、テレビ番組「カンブリア宮殿」でSADAが取り上げられていたのを見ました。
その際、社長が自社のオーダースーツを着て富士山に登る姿が印象的でしたが、それ以外の詳細はほとんど忘れていました。今回の日本経済新聞の記事をきっかけに、SADAの成功要因やその強さの秘密について、行動経済学を中心とした理論やバイアスを軸に改めて探求していきたいと思います。
リスクを取る勇気:「いばらの道」を選ぶ決断
佐田社長が幼少期から「迷ったらいばらの道に行け」という教えを受け、その信念を経営にも反映させていることは、SADAの成長を支える柱となっています。佐田社長の意思決定は「損失回避バイアス」を打ち破るものであり、通常であれば避けがちなリスクを敢えて取る姿勢が、企業の大きな成長に繋がっています。
新型コロナ禍の影響で、多くの企業が収益の減少に直面しましたが、SADAは不採算店を閉鎖し、デジタルマーケティングへリソースを集中させるという大胆な決断を下しました。この「サンクコストバイアス」に囚われず、変革を進めることができた点は、同業他社にとっても重要な学びです。既存の投資や戦略に固執することなく、適切なタイミングで撤退し、将来の成長に繋がるリソースを再配置する判断力がSADAの成功を支えています。
デジタルシフトとウェブマーケティングの徹底
SADAは、新型コロナ禍によって消費者の購買行動が大きく変わる中、デジタルマーケティングに迅速にシフトしました。ウェブサイトのSEO(検索エンジン最適化)やMEO(地図検索エンジン最適化)を強化することで、オンラインでの来店予約を促進し、来店者の8割が購入に至るという高いコンバージョン率を達成しています。リスティング広告の導入に加え、パーソナライズドなランディングページを作成するなど、細かな消費者ニーズに応じたマーケティング戦略が功を奏しています。
このようなデジタルマーケティングの強化は、オフラインからオンラインへの顧客導線をしっかりと構築し、結果的にSADAの業績をコロナ禍でも安定させる要因となりました。特に、若い20〜30代の新規顧客層を取り込むことに成功した点は、デジタルネイティブ世代へのアプローチを強化することで、長期的な顧客基盤の強化に繋がっていると言えます。
YouTube戦略:11年前の先見性
SADAのYouTube活用は、他社と大きく差別化されるポイントです。11年前という早い段階からYouTubeをマーケティングツールとして活用し、スーツの耐久性や運動性を強調するユニークなコンテンツを発信してきました。たとえば、社長自らスーツを着て富士山に登る動画は視聴者に強烈なインパクトを与え、約1万人のコアファンを獲得するに至っています。このような動画を通じて、単なる製品プロモーションを超えたブランドストーリーテリングを行い、消費者との感情的な結びつきを強化しました。
YouTubeを活用したコンテンツマーケティングの先見性は、他業界の企業にも学ぶべき点です。近年、動画コンテンツの重要性が増している中、SADAが早期にこの手法を取り入れ、実際の顧客獲得に繋げている事例は、他社のデジタル戦略においても参考にすべき成功モデルです。
ブランドエンゲージメントとターゲティング
SADAは単にスーツを販売するだけでなく、顧客との深い感情的なエンゲージメントを築くことに成功しています。ブランドとしての個性を際立たせるために、佐田社長の挑戦的な姿勢やユニークなストーリーテリングを活用し、YouTubeやSNSでの発信を通じてブランド認知を高めました。また、顧客属性に応じてカスタマイズされた体験を提供することにより、ターゲティングの精度を向上させ、若年層から高齢層まで幅広い顧客層を取り込むことに成功しています。
まとめ
オーダースーツSADAの成功は、困難に直面しても変革を恐れず、適切な意思決定を行ってきた点にあります。そこを踏まえ、同業他社が見習うべきポイントは、次の3つではないかと思います。
- 挑戦を歓迎する企業文化の構築:変化が避けられない時代において、リスクを恐れず挑戦し続ける姿勢が成長を支える原動力になります。企業が柔軟に対応できる文化を築くことが、長期的な成功に繋がるでしょう。
- デジタルシフトの徹底:SADAのように、オフラインからオンラインへとマーケティングリソースを効果的にシフトし、効率的な顧客獲得を実現することが、今後のビジネスの鍵となります。
- ブランドストーリーテリングの活用:YouTubeを通じたSADAのユニークなコンテンツは、消費者との感情的なつながりを深め、強いロイヤリティを築く大きな要因となりました。他社も商品の特性だけでなく、ブランドの魅力を伝えるストーリーテリングに力を入れるべきです。
今後、SADAはさらなる成長を目指し、オムニチャネル戦略を推進していくことが期待されます。同様な事業を展開されている方々も、この成功事例を学び、変化する市場に柔軟に対応する姿勢を持つことが求められるでしょう。
次回も、ビジネスに役立つ行動経済学の理論を紹介します。お楽しみに!