ビジネス×行動経済学

行動経済学をビジネスに適用することを目的にしたブログです

【コラム①】 『行動経済学の光と影 先駆者カーネマン教授を裏切った後進たちの罪』を読んで

皆さん、こんにちは。

本ブログは行動経済学を実際のビジネスに適用していくことを主目的としています。

 

行動経済学の理論を中心に、認知心理学社会心理学などの要素も交え、ビジネスの様々なシーンやプロセス、フレームワークに適用し、実践に役立てていきたいと思っています。

 

はじめに

さて、今回は通常の「ビジネス×行動経済学」という枠組みとは少し離れますが、行動経済学におけるトピックについて言及したいと思います。

通常の「ビジネス×行動経済学」は毎週月曜日午前10時に更新予定ですが、今回取り上げるトピックや時事ネタ、考察などは「コラム」という形で不定期に更新していきます。

 

今回は2024年4月18日に公開された以下の記事について、思うところを書いていきたいと思います。

business.nikkei.com

冒頭で紹介されているものとは少し異なりますが、同記事で取り上げられているのは、主に以下3つです。

 

  1. 行動経済学の父とされるカーネマン教授が3月に死去
  2. 行動経済学は「中身も外見もゾンビ」
  3. 著名な行動経済学者の研究不正が相次いで発覚

 

1. 行動経済学の父とされるカーネマン教授が3月に死去

記事にもあるとおり、ダニエル・カーネマン氏は故エイモス・トベルスキー氏との共同研究をきっかけに、1979年には行動経済学において最も有名な理論の1つ「プロスペクト理論」を発表しました。

それらの功績が評価され、2002年にはノーベル経済学賞を受賞しており、いわば「行動経済学の父」ともいえる存在でした。

その15年後の2017年にノーベル経済学賞を受賞する「ナッジ」提唱者リチャード・セイラー氏とも共同研究を行うなど、様々な交流、活動、行動経済学の発展への貢献をしてきました。

 

ダニエル・カーネマン氏について、書き出したらキリがなくなるので、本件はこの辺でと思いますが、改めて哀悼の意を表します。

 

2. 行動経済学は中身も外見もゾンビ

こちらは、2021年のジェイソン・フリハ氏のブログを引用する形で、行動経済学の理論に関する「再現性への疑問」が言及されています。

 

同記事では、フリハ氏にインタビューをして以下コメントも得たようです。

フリハ氏はナッジや損失回避の再現性に疑問を持ったうえで、行動経済学には、行動変容を起こすツールとして世間から実力以上の過剰な期待がある」と語っている。

※ このコメントについて、フリハ氏のブログ全文を読んだわけではないことをご承知おきの上、後続の文章をお読みいただければと思います。

 

まず、ナッジの再現性に疑問というところですが、ナッジは別の記事でも記載しましたが、効力を発揮しやすいものと発揮しづらい(発揮しない)ものがあると思っています。

具体的には、カーネマン氏の「ファスト&スロー」で書かれている速い脳(いわゆる「システム1」)と遅い脳(いわゆる「システム2」)があり、「ナッジ」は速い脳には有効だが、お遅い脳には有効ではないと思っています。

ナッジの代表的な事例でもある、スキポール空港での便器内に小さなハエのイラストを貼るやコロナ禍時にスーパーのレジ近くでソーシャルディスタンスを自然に保たせるような矢印などは、速い脳で判断するものなので効力がありますが、そもそもナッジは「軽く肘でつつく」という意味なので、熟考を要する遅い脳で判断することには向かないのは当然かと思います。

 

また、損失回避に関しても、よく例として挙げられるのは下記のようなものです。

 

      a. 80%の確率で4,000円をもらえるが、20%の確率で何ももらえない

      b. 100%の確率で3,000円もらえる

 

      c. 80%の確率で4,000円を支払わなければならないが、20%の確率で支払わなくて良い

      d. 100%の確率で3,000円を支払う

 

まず、aかbかで選択をさせるとaを選択する人が多い。そのロジックで行けばcとdではcを選ぶ人が多いはずだが、dの方が多く選択された。

これは、利益は確定で、損失は確定させず少しの可能性にかけるという選択をするという傾向を示していますが、これは私もそうですが、大半の方も同様ではないかと思います。

 

ナッジも同様ですが、損失回避に関しても全体として論じるのではなく、「再現しないものもあった」という表現なら分かるのですが、同記事の表現方法には疑問を感じます。

 

3. 著名な行動経済学者の研究不正が相次いで発覚

こちらは「予想どおりに不合理」などの書籍で有名なダン・アリエリー氏が事例として挙げられています。アリエリー氏の関与度合いは分かりませんが、データ改ざんなど捏造があったのは事実のようです。

 

しかし、その事例をもって「行動経済学への信頼揺らぐ」というのはいかがなものかと思います。

 

捏造というと、すぐに考古学が思い浮かぶのですが、代表的なものとして以下などがありました。

ja.wikipedia.org

「神の手」などとも評され、それが逆にプレッシャーになってしまい捏造という最悪の結果に至ってしまったのかなと推測はしますし、大問題であったとは思います。

 

しかし、この時「考古学への信頼」は揺らいだでしょうか?

 

捏造自体はもちろん悪いことですし、糾弾されるべきことです。ただ、その一例(もしくはいくつかの例)だけで、その学問自体の信頼性が揺らぐというのは乱暴かな、と思わざるを得ません。

 

「2.行動経済学は中身も外見もゾンビ」にしても、「3.著名な行動経済学者の研究不正が相次いで発覚」にしても、少し論理の飛躍が過ぎていて、行動経済学へのネガティブキャンペーンかな、などとも思いました。

 

私自身は行動経済学にポジティブであり、もっとビジネスを中心に積極活用していくべきという思いから本ブログを書いているので、同記事とは対極にいて、それだからこその今回の意見となるのかもしれないので、アンチテーゼとしての一意見としてとらえていただければ幸いです。

 

最後に、話しは少しそれますが、今回の件で様々調べる過程で、面白そうな書籍を見つけました。

bookmeter.com

「ファスト&スロー」にも言及されているようですが、その他学問におけるスポンサー企業への忖度が絡んだレポート(捏造)の事例や「再現性の危機」という章があるなど興味がひかれます。

 

では、また次回!