皆さん、こんにちは。
本ブログは行動経済学を実際のビジネスに適用していくことを主目的としています。
行動経済学の理論を中心に、認知心理学や社会心理学などの要素も交え、ビジネスの様々なシーンやプロセス、フレームワークに適用し、実践に役立てていきたいと思っています。
はじめに
さて、前回、前々回と営業プロセスを5つに分け、各プロセスに深くかかわる行動経済学の理論、バイアスを紹介してきました。
今回は営業プロセスの最終段階である、「クロージング(契約)」と「アフターフォロー(リピーター)」について紹介したいと思います。
クロージング(契約)
まずは「クロージング(契約)」についてです。
クロージング(契約)に持ち込むためには、もちろんプッシュも大事ですが、プッシュばかりして相手を圧迫し過ぎてしまうと「心理的リアクタンス」により、望まない結果に向かってしまうこともあるので、時には寝かせること、ただ待つこと、即ち「スリーパー効果」を狙うのも重要です。
「果報は寝て待て」ということわざもありますしね。
また、時には「カリギュラ効果」をうまく活用し、「○○という効果が期待できるのですが、貴社の現状では難しいかもしれませんね」など欲求を逆流させることも効果的です。
これは「心理的リアクタンス」とも似ていますが、人は禁止されたり、制限されたりすると却って真逆の方向に気持ちが向いていくという特性を活かすものです。
正攻法で行く場合は、プッシュ、一押しという意味で「ナッジ」が一番有名ではありますが、ナッジは「BXストラテジー 実践行動経済学2.0 人を動かす心のツボ」などにも同様なことが記載されているのですが、ダニエル・カーネマン「ファスト&スロー」でいうところのシステム1で判断できるケースには効果が出やすいのですが、システム2を利用するケースでは効果が出づらいので、過度に期待するのは危険です。
瞬時に判断できることであれば有効だが、熟考を要するものには「ナッジ」はあまり向いていません。
また、相手を契約、決断に導くプッシュには値下げ、条件変更などもあるかと思いますが、これは、「譲歩」をすることによる「返報性」が期待でき、相手に「ここまでしてくれているのなら」と気持ちを契約成立に向かわせる効果があります。
これは、落としどころの価格を提示するのではなく、高めに提示しておいて、落としどころまで「譲歩」したように見せるテクニックで、交渉の場でも頻繁に見受けられますよね。
契約成立に障害となるバイアスには、「現状維持バイアス」や「不作為バイアス」、「サンクコストバイアス」などがあり、どれも「現状を変える」ことへの拒否反応に位置付けられます。
今のままで変更しなくても良いという「現状維持バイアス」、現状を変えることによって悪い結果がもたらされるのではないか?と恐れる「不作為バイアス」、現状のものにだいぶお金や時間を使ってきたからな、という「サンクコストバイアス」。
何かを新規で購入してもらう時もそうですが、現状利用しているものがあり、その代替えとして購入してもらう時などにも上記3つは発生します。
アフターフォロー(リピーター)
最後はアフターフォロー(リピーター)です。
クロージング(契約)がうまくいき、契約が成立してもそこで終わりという訳ではありません。新規顧客の場合特にそうですが、そこからが第2のスタートになります。
なぜなら、契約締結した顧客との関係はこれからも続きますし、その顧客が新たな顧客を生んでくれる可能性もあるからです。
顧客が顧客を生んでくれる代表例が「(正の)ウインザー効果」になります。
「ウインザー効果」、即ち第三者(この場合は契約締結した顧客)からの新たなる顧客(候補)への推薦や紹介は、直接営業マンがセールストークや提案をする場合と比較して、数倍、数十倍の効果をもたらしてくれます。
ただ、気をつけなければならないのは「ウインザー効果」は必ずしも「正」の方向にだけ働くわけではないということです。
「釣った魚にえさはやらない」ではないですが、契約締結、注文をもらったからもういいや、という形でアフターフォローを怠れば、「負のウインザー効果」が発生してしまいます。
良い噂より悪い噂の伝搬力が高いのは世の常ですので、以降の営業活動にも大きな障害になってしまいます。
そして、契約締結したものが、長く使い続けるものであれば、「クロージング(契約)」の際には、マイナスの方面に作用した、「現状維持バイアス」や「不作為バイアス」、「サンクコストバイアス」が今度は自身にとってプラスに働きます。
ただ、もちろんこれらのマイナスが働いていても、契約先を変更したいという気持ちにさせるほど、アフターフォローができていない場合は、さっさと乗り換えられてしまうので、油断は禁物です。
また、一方でクロージングが不成立に終わった時にも重要なバイアスがあります。
「セルフサービングバイアス(コントロール欲求)」ですが、これは平たく言えば、「成功は自分のおかげ、失敗は他(人)のせい」としてしまうバイアスです。
失敗した際は、同僚や上司に対してはともかく、自分自身の中ではきちんとその失敗の原因や相関関係を分析すべきです。
そして、相関関係の分析においては、相関関係を過大に評価しすぎたり、錯誤相関(相関関係の取違い)を発生させがちなので注意が必要で、そういう意味では、やはり出した結論は誰か第三者に見てもらうのが良いのかもしれません。
また、分析の際には「オーバーコンフィデンスバイアス」にかかっていなかったか、という分析も必要です。
これは、自信過剰から発生するバイアスですが、自身の提案に過剰な自信を持ってしまい、「顧客は○○という課題をもっている(はずだ)から、××で解決できる(はず)。これが受け入れられないなんてありえない」という思考に陥ってしまうものです。
繰り返しになりますが、やはり「聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥」で、原因分析は成功時も失敗時も信頼のおける仲間と行うのが良さそうです。
さて、3回に渡り「営業×行動経済学」というテーマで、営業における各プロセスでの行動経済学とのかかわりや注意点を紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか?
1回目の記事でも書いた通り私自身もまだまだ修行のみであるため、違和感を覚える内容などもあったかと思います。
そこはぜひコメントでご指摘いただき、よりブラッシュアップし、今後の営業活動に行動経済学がフル活用していけるようにしていきたいと思っています。
では、今週はこの辺で。
お楽しみに!