ビジネス×行動経済学

行動経済学をビジネスに適用することを目的にしたブログです

PDCA×行動経済学

皆さん、こんにちは。

本ブログは行動経済学を実際のビジネスに適用していくことを主目的としています。

行動経済学の理論を中心に、認知心理学社会心理学などの要素も交え、ビジネスの様々なシーンやプロセス、フレームワークに適用し、実践に役立てていきたいと思っています。

 

はじめに

前回までは営業を各プロセスに分解し、それぞれに影響しうる行動経済学のプロセスや理論を紹介しましたが、今回はPDCA行動経済学(行動科学)の関係性を考察していきます。

 

PDCAは広く知られているツールではありますが、改めてその意味を見てみましょう。

PDCAサイクルという名称は、サイクルを構成する次の4段階の頭文字をつなげたものである。

Plan(計画):従来の実績や将来の予測などをもとにして業務計画を作成する。

Do(実行):計画に沿って業務を行う。

Check(評価):業務の実施・成果が計画・目標に沿っているかどうかを評価する。

Act(改善):実施が計画に沿っていない部分を調べて改善をする。

この4段階を順次行って1周したら、最後のActを次のPDCAサイクルにつなげ、螺旋を描くように1周ごとに各段階のレベルを向上(スパイラルアップ、spiral up)させて、継続的に業務を改善する。

出展: Wikipedia

ja.wikipedia.org

上記で説明されている通り、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善、※またはAction)の4段階に分けられ、一連の段階が終了したら、また始まりのPlan(計画)に戻り、継続的に改善を図っていくものでもあります。

 

PDCAは循環しながら改善し続ける、いわば上昇し続けるという意味から「螺旋階段」になぞらえることもしばしばあります。

PDCA螺旋イメージ

PDCAと対比する形で、Observe(観察)、Orient(状況判断)、Decide(意思決定)、Act(行動)に分解される「OODA」などもあり、PDCAはもう古い、これからはOODAだなどという論調をみかけますが、ざっくり言えばPDCAは中長期的、OODAは短期的に利用するなど使い分けるというのが良さそうです。

PDCAやOODAの詳細については、下記などが参考になると思います。

www.mdsol.co.jp

OODAについてもいずれ取り上げたいとは思いますが、今回は昔からの馴染みでもあるPDCA行動経済学の関係についてみていきたいと思います。

 

PDCA行動経済学の関係

PDCA行動経済学の関係を図にしてみました。

PDCA×行動経済学

こちらに基づいて、まずはPDCA実施前、すなわち最初の「Plan(計画)」が始まる前の段階から見ていきたいと思います。

 

PDCA実施前

自身の業務を効率的に進めるために、それぞれ様々な工夫をされていると思いますが、PDCAを実施することを思い立った際にも行動経済学の様々なバイアスが関係してきます。

まずは行動に移せない(移さない)ことに影響するバイアスとしては、「現状維持バイアス」、「不作為バイアス」、「現在バイアス」などがあります。

現状維持バイアス」は、ざっくりいってしまうと「今のままでいいや」と思ってしまい、変化を避けてしまうバイアスで、PDCAなど何かを始めよう、という思いを阻害します。

また、「不作為バイアス」とは変化を加えて後悔するくらいなら、現状のままで後悔した方が良いと「何もしない」を選択してしまうバイアスです。

そして、「現在バイアス」はPDCAなど改善活動を行うと良い結果を得られるという思いがあっても、直近の楽をしたい、快楽を享受したいなどを優先してしまうバイアスで、ダイエットをしたいがついつい目の前のご馳走を食べてしまうということが良く例として挙げられます。

 

こういった阻害バイアスを乗り越えて実施まで持っていく必要があるのですが、それを回避するためには、まずこういったバイアスが存在していることを認識し、自分が今まさにそのバイアスにかかってしまっているということに気づくことが大事ですが、そのほかに自身に対して、「損失回避」をうまく利用することも1つの手です。

今回はPDCAに関する説明なので、PDCAを実施しないと損をすること(時間や効率、生産性など)を思い浮かべ、PDCAを実施しないと損をしてしまうということを意識するのも非常に重要かと思います。

また、先にマイナス要因として例に挙げた「現状維持バイアス」も、PDCAを開始してしまえば、今度は継続のためにプラスの効果が期待できることも書き添えておきます。

 

さて、これらのバイアスをうまく乗り越え、実際にPDCAを開始することができたと仮定して、段階ごとに行動経済学とのかかわりを見ていきたいと思います。

 

Plan(計画)

計画段階において影響を及ぼすのは、まず「一貫性のバイアス」で、これはマイナスの影響として説明されることも多いのですが、もちろんプラスの面もあります。

人は、一度決めたことに対し、整合性を保っていこうという傾向があるため、この「Plan(計画)」段階において決める内容は非常に重要です。今回は、以降の段階で継続させることに対するプラス要素として書いていますが、ここで曖昧な計画(目標)などを立ててしまうと、「一貫性のバイアス」が作動せず、継続が難しくなってしまうでしょう。

次は「フレーミング効果」です。こちらは他に対して利用するイメージが強いかもしれませんが、自身に対しても効果を発揮すると思っています。計画を立てるということは、後でその内容を見返すことになりますが、その際に気持ちを上げられるような表記方法にしておくのが良いです。

行動経済学が最強の学問である」などでも紹介されていますが、この「気持ちを上げられる」という部分は「アフェクト」と呼ばれる淡い感情を指しており、喜怒哀楽などの「エモーション」とは異なります。

逆に「Plan(計画)」の段階でマイナスに作用するバイアスとしては、「自信過剰バイアス」や「計画錯誤」などがあります。

「自信過剰バイアス」とは、その名の通り自身に対し過剰な自信をもってしまい、無茶な計画を立ててしまう要因となります。

また、「計画錯誤」とは、計画を立てる際に、その遂行に要する時間や労力などを少なく見積もってしまう傾向のことで、「自信過剰バイアス」とともに、「Do(実行)」以降の段階の推進が難しくなる「計画倒れ」を招いてしまいます。

 

少し話しはそれますが、戦略の大家でもあるリチャード・P・ルメルト氏は、「戦略の要諦」や「良い戦略、悪い戦略」などの中で、「実行可能であること」を繰り返し強調していますが、PDCAにおける「Plan(計画)」でも同じことが言えると思います。

 

Do(実行)

「Plan(計画)」段階を無事終えると、次は「Do(実行)」段階に入りますが、ここでも様々な行動経済学のバイアスや理論が関係してきます。

プラスの要因となりうる代表例としては「拡張形成理論」と「ナッジ」があるかと思います。

「拡張形成理論」とはポジティブな感情がやる気を引き出し、利用可能な資源や能力を形成していくというものですが、この理論を持ち出すまでもなくポジティブな感情を持っている状態であれば、資源や能力を最大化可能なので、結果「Do(実行)」も最大の成果をだせることになります。

また、「ナッジ」に関しては、以前の記事で得意不得意があるという風に書きましたが、そのとおり、ちょっとした「Do(実行)」のきっかけを作るには非常に有効です。

実行や継続には意志の力より(周辺)環境の影響が大きいというのはよく聞くことですが、「Do(実行)」を実施しやすくなる環境を作っておく、具体的にはモチベーション、プラスのアフェクトが働く環境を周辺に整えておくことが重要です。

一方、マイナスな影響を与えるバイアスとしては、ナッジと対極にある「スラッジ」があります。

より良い行動、ここでは「Do(実行)」の実施ですが、それらを実施するのが非常に手間であったり、不要な誘惑があったりすると実施が難しくなったり、実施できないような状況になってしまうので要注意です。

また、もう1つのマイナス要因としては「エゴデプレーション」もあります。

「エゴデプレーション」とは、意志力や自己統制が限定的なリソースであるという理論ですが、「Do(実行)」を連続的に行っていると、意志力や自己統制力が落ちてしまい、その段階で中断するだけでなら良いですが、その時の感情がトラウマになってしまい、再開するのが億劫になってしまい、結果、PDCAのサイクルが止まってしまうことにもなりかねません。

そういう意味では、適度な息抜きも必要なのでしょう。

 

Check(評価)

さて、PDCAに限った話ではないですが、計画し実行したならば、それを評価(結果の確認)する必要があります。

この「Check(評価)」の段階においても、関連してくる行動経済学の理論やバイアスを考察していきたいと思いますが、評価は可能な限りセルフチェックではなく、第三者に行ってもらった方が良いです。というのも自身で評価、確認を行うと「自己奉仕バイアス」や「後知恵バイアス」などの影響を受けてしまうからです。

「自己奉仕バイアス」とは、失敗は他(人)のせい、成功は自分のおかげと考えてしまう傾向で、これだと失敗した際も成功した際も、原因究明が難しいですし、以降のノウハウにもなりません。

また、「後知恵バイアス」とは、言い訳の一種とも言えますが「そうなると思っていた」「そのような結果になると予想していた」という思考です。

これらのことからも、やはり評価は第三者を巻き込んだ方が良いのですが、それは「単純存在効果」や「ピグマリオン効果」などでも説明可能です。

「単純存在効果」とは、他人の存在を無意識化でも感じると行動に変化をきたすようになるというバイアスです。

行動経済学が最強の学問である」でも、5ドルを渡して電池を買ってきてもらうという実験の際に、以下の結果が得られたことが紹介されています。

他の客が0人→ 33%が一番高い電池

他の客が1人→ 42%が一番高い電池

他の客が3人→ 63%が一番高い電池

他の人の目を意識すると「ええかっこしい」になるという特性を活かし、きちっとした評価ができるようになるでしょう。

また、他の人に評価をしてもらう場合、適切なアドバイスを受けるのも良いですが、「頑張っているね」や「今後もさらに期待できそうだね」などの言葉をもらうと、「ピグマリオン効果」が発動し、その期待に沿った結果を今後も出し続けていけるようにもなります。

 

Act(改善、※またはAction)

最後のAct(改善、※またはAction)の段階においても行動経済学のバイアス、理論が関連してきますが、プラス側の代表的なものとしては、「サンクコスト効果」や「メタ認知」などがあります。

「サンクコスト効果」は沈んだ費用という意味で、通常は支払いなどが済んでしまったコストを取り戻そうと更にコストをかけて泥沼にはまってしまう、いわばネガティブな意味に使われますが、それを「今までかけてきた時間、工数」に置き換え「もったいない」という気持ちに持っていければ、一巡回したからいいかという気持ちを回避し、次ラウンドの「Plan(計画)」に昇華しやすくなります。

また、改善点を第三者と議論できると良いですが、適切な人がいない場合は「メタ認知」を利用すると良いでしょう。「メタ認知」によって、自分自身を俯瞰し客観的に分析することで、冷静かつ柔軟な改善策が生まれてくるはずです。

逆にマイナスな要因になりうるのは、「正常性バイアス」と「コントロール幻想」です。

正常性バイアス」とは、先入観や偏見が働いてしまい、改善すべき事態を「正常の範囲」と認識してしまうことで、その結果同じことを繰り返してしまい、改善が改善にならない状況になってしまいます。

また、「コントロール幻想」によって、自身の管理(コントロール)能力に過剰な自信を持ってしまい、問題を問題として捉えられない状況に陥ってしまいます。

問題は解決することよりも発見することが難しいとも言われますが、それはこの辺のバイアスが密接に関連しているのかもしれません。

 

さて、今回は少し長くなってしまいましたが、営業プロセスのように複数回に分けることなく一挙に紹介してしまいました。

もちろん、ここに書いたことが全てでは無いですし、「こちらのバイアスも関係ありそう」、「このバイアスは此方の段階では?」などのご意見も出てくるでしょう。

以前も申し上げた通り、これをたたき台により良い形にしていければとおもっていますので、ぜひコメントなど通じてご意見いただければ。

 

では、また次の月曜日に!