ビジネス×行動経済学

行動経済学をビジネスに適用することを目的にしたブログです

AIDMA×行動経済学

皆さん、こんにちは。

本ブログは行動経済学を実際のビジネスに適用していくことを主目的としています。

 

行動経済学の理論を中心に、認知心理学社会心理学などの要素も交え、ビジネスの様々なシーンやプロセス、フレームワークに適用し、実践に役立てていきたいと思っています。

はじめに

さて、今回はマーケティングなどで古くから購買プロセスとして使われている「AIDMA」と行動経済学の関係を見ていきたいと思います。

 

購買プロセスでは、「AIDMA」だけでなく、「AISAS」や「DECAX」などもありますが、「AISAS」は次回、「DECAX」やその他についてはいずれ紹介したいと思います。

 

はじめに、AIDMAについて改めて説明すると、以下の通りになります。

Attention(注意)  存在を知ってもらう

Interest(興味)   興味を持ってもらう

Desire(欲求)     欲しいと思うようになってもらう

Memory(記憶)   記憶または思い出してもらう

Action(行動)     購入してもらう

 

その上で、「AIDMA」と行動経済学を以下のように結び付けてみました。

AIDMA×行動経済学

黒字はプラス、赤字はマイナスの効果をもたらすバイアス、理論という意味になります。

上の図に基づいて、「AIDMA」の各プロセスにおける行動経済学との関わりを個別に見ていきたいと思います。

 

Attention(注意)

まずは、「Attention(注意)」ですが、ここを「Awareness(認知)」と定義するモデルもあるようですが、要は顧客(候補)に自社の製品やサービスを発見し、知ってもらう段階です。

この段階で関連してくるのは、まずは「カクテルパーティ効果」です。

「カクテルパーティ効果」というのは、パーティ会場で人が多くいても特徴や興味、関心などが合致していると発見されやすく、目立ちやすくなることを指しますが、製品やサービスも同様で、ターゲットに刺さるキーワードで、溢れかえる情報の中から自身が提供しているものを発見してもらえるようにする必要があります。

そういった場合、「○○な人向け」や「□□にお悩みの方」など、○○や□□にターゲットとしたい層、もしくはその層が関心を持っているであろうキーワードを配置すれば、溢れかえる情報の中から、自身が提供している製品やサービスを見つけてもらいやすくなるでしょう。

 

続いては、「ハロー効果」です。

せっかく見つけてもらったものも、外観などの印象が悪い場合、その瞬間に興味を持ってもらえないどころか、その後どこで見かけても最初の印象が引きずり、購入・導入には程遠くなってしまうので、要注意です。「初頭効果」という心理効果もあるとおり、初見の数秒でその後が左右されてしまうことに留意しないといけません。

 

次に、「ツァイガルニク効果」ですが、これは不完全な状態で提示をしておき、続きもしくは答えが気になるという状態にし、興味を持ってもらうためのバイアスです。よく、「続きはWeb」でなどという広告を見かけますが、それはこの「ツァイガルニク効果」を利用している事例です。

 

また、目を引く表現という意味では「ジンクピリチオン効果」も利用可能です。

「ジンクピリチオン効果」とは、意味は分からないけどなんか凄そう、というように感じられる言葉を利用することを指します。

この「ジンクピリチオン」という言葉は、シャンプーのCMで実際に利用されたキーワードで、先に述べた「意味は分からないけどなんか凄そう」と評判になり、そのシャンプーがヒットしたことから命名されたそうです。

ただし、意味が分からないだけ、という状態では逆効果になってしまうので、利用する際は十分な事前検証が必要です。

 

もちろん、Attention(注意)の時点でマイナスにならないよう注意すべきバイアスもありますが、それは「ストループ効果」です。

「ストループ効果」とは、色と文字が矛盾している際に判断、認識がこんなになる現象です。「あか」、「きいろ」などが例ですが、脳トレではこれを逆手にとって出題していましたね。話しがそれましたが、「色彩学色彩心理学)」などという言葉があるとおり、伝えたいメッセージとイメージ、配色は整合性が保たれている状態にする必要があります。

 

Interest(興味)

続いては、「Interest(興味)」です。

認知をしてもらった後は、当然ながら興味を持ってもらう必要があります。

 

興味を持ってもらうという点で関連してくるのは、まずは「フレーミング効果」です。

フレーミング効果」とは事実としては同じでも、表現方法によって印象が変わってくるという現象ですが、よく例として挙げられるのが「タウリン1000mg配合」です。これを「タウリン1g配合」とすると、意味は同じですがタウリンが多く含まれるという印象がなくなりますよね。

ポジティブなフレーミングにするかネガティブなフレーミングにするかは、訴求する製品やサービスにもよりますが、より心に残る表現にするというのが重要です。

 

続いては、「アンカリング効果」です。

「アンカリング効果」で一般的に説明に利用されるのは、定価にバツ印などを引き、その近辺に実際の販売価格を表記するという事例ですが、最初に与える情報は今後のAIDMAの流れにおいても、「アンカー(または参照点)」になってくるものなので、価格に限らず表現方法などにも目を光らせることが必要です。

 

次は「ヴェブレン効果」ですが、これは高額な製品やサービスに限定される効果かもしれません。

というのも、そもそも「ヴェブレン効果」は価格が高いほど売れるという、いわば持っていること自体がステータスになり、見せびらかしたい製品やサービスに効果的だからです。

高額製品・サービスを販売する際には、お得感やお手軽感を逆になくすことが購買に結びついていきます。

 

次は「社会的選好(利他性)」効果を狙った表現です。

SDGsや地域振興などに関連して、「エシカル消費」などというキーワードもありますが、対象とする製品やサービスを購入することが社会貢献に繋がる消費行動が注目を集めています。

もちろん、虚偽のメッセージは厳禁ですが、環境配慮、地域貢献などがある場合は、そこを大きく訴求すると、感度の高い消費者に刺さってくるかと思います。

 

興味を惹くという点で良く利用される効果ではありますが、「希少性効果」も有効です。

時間を限定したタイムセール、「限定○個」などの個数限定やそもそも生産数を限定し、品薄状態を故意に演出するなどもありますし、ここでしか買えないなどの場所が限定されるというのもありますし、クラウドサービスなどでは招待制や一定条件を満たしているなど利用できる人を限定するなど様々な種類、表現方法がありますので、自身が提供する製品やサービスにあった「希少性効果」を使用するのが良いでしょう。

 

Desire(欲求)

興味を持ってもらったら、それが今度は「欲しい」に変えていく必要があります。

 

ここで関連してくる行動経済学のバイアスとしては、まず「コントラスト効果」があげられます。

人は製品やサービスに限りませんが、特に自分がよく知らない対象物を評価する際に、それ単体での評価はできず、必ず何かと比較して良し悪しを決めます。

したがって、製品やサービスを訴求する際には、必ず比較対象を用意する必要がありますが、それは類似した別製品やサービスとの比較でも良いですし、自身の製品やサービスの中で、いわゆる「松・竹・梅」などランクを用意するのも手です。

その「松・竹・梅」に関連し、よく言われるのが「極端回避性」で、人は往々にして松や梅などの両極端ではなく、真ん中(中庸)の竹を選択することが多いといわれていますが、その性質を利用して本当に売りたいもの(利益率が高いなど)を竹にしておく、というのはよく行われていることですよね。

 

続いては「端数効果」ですが、これは「3,000円」と表記するよりも「2,980円」と表記した方が、わずか20円しか違わないにも関わらず、大きく印象が変わってくるという性質です。

これは、スーパーや家電量販店などで多く利用されているので、詳細な説明の必要はないかもしれませんが、逆に高額製品・サービスだと逆効果になるので、それらの価格を表示する際は「キリの良い」提示価格にするのが良いとも言われています。

 

そして、興味を惹くという点では「損失回避」も有効です。

これは、人間は得をすることよりも損をすることに過敏に反応するという特性を利用するものですが、「○○を買わないと□□という不利益が発生します」というふうに訴求する方法です。

「この製品(サービス)を購入すると○万円お得」というよりも「この製品(サービス)を購入しないと(=現状のままだと)○万円損する」というメッセージの方が効果も高い、ということですね。

 

次は「同調効果」ですが、これは周りの人と同じ意見や行動だと安心し、異なると不安になってくる現象ですが、それを利用して「○○さんも利用しています」や「□□な方に朗報」などと表現をして、欲求を高める手法です。

BtoB製品やサービスなどだと業種別に成功事例などを紹介していますが、あれも同調効果を狙ったものです。

 

ただ、その「同調効果」とは逆の志向もあります。

それは「スノッブ効果」で、これは「人と同じものは嫌」という特性ですが、これは数量限定や購入者限定の「希少性効果」と相性が良さそうです。

「同調効果」で訴求するか、「スノッブ効果」で訴求するかは、自身の製品やサービスの特徴を見極めたうえで決めるのが良いかと思います。

 

Memory(記憶)

興味を持ってもらう段階まで行っても、その場ですぐに購入とはならず、一定の時間がかかることも多いです。そのためには自身の製品・サービスを覚えておいてもらう必要がありますが、そのためにはまず「ザイオンス効果」が有効です。

ザイオンス効果」とは「単純接触効果」とも言い、同じ対象に何度も接触、目にすることで好印象を持つという効果です。CMなどを頻繁に利用する、Web広告を広範に展開するなどもありますし、小売店であれば特定の地域で集中出店をするドミナント戦略などもありますし、法人営業などであれば頻繁に顔を見せるなど手段は様々です。

 

ただ、「ザイオンス効果」は効果を発揮することも多いのですが、一方で「頻繁に目につきウザい」と思われてしまう可能性のある、いわば諸刃の剣でもあります。その真逆とも言えるのが「スリーパー効果」を狙う戦略です。

「スリーパー効果」はもともと、信憑性の低い情報源からの情報でも時間の経過とともに信憑性に関しては忘れ去られ情報の内容だけが頭に残る現象をいいますが、「果報は寝て待て」という意味合いで、顧客の情報が良い方向に熟成されるまで、ひたすら待つというのも1つの戦略ではあります。

 

「Memory(記憶)」の段階では、(良い)インパクトを残し、覚えておいてもらうということも大事ですが、一方で「思い出してもらう」ことも大事で、それが容易に実現できるようにすることがとても重要です。

その際に有効なのが、「韻踏み効果」と「アベイラビリティバイアス」です。

「韻踏み効果」はその名の通り、韻を踏んだり、似通った表現を繰り返すことで印象に残りやすくする効果ですが、そういった表現だとそのフレーズが頭に染みついて、思い出しやすくもなります。

また、「アベイラビリティバイアス」は「利用可能性ヒューリスティック」の一種ですが、韻を踏むだけでなく、何かのメロディとセットで表現したり、視覚とセットで表現をしたりして強く印象付けることで、容易に思い出しやすくなります。少し古いかもしれませんが、「良いことあるぞ~、ミスタードーナツ」などは今でも覚えています。

 

ただ、いくらインパクトを残す効果的な情報であっても、その情報量が多くなってしまうと消費者は「情報過多」に陥ってしまい、イメージも悪くなり次の段階に進まなくなることもあるので要注意です。

やはり、簡潔にインパクトがある表現を韻踏みなどを交えてメッセージ化する、というのが一番なのでしょう。

 

Action(行動)

さて、AIDMAの最終段階は「Action(行動)」、即ち購入をしてもらうことですが、そのためには最後の一押しが必要な場合もあります。

そのためには「返報性」の原理が有用です。

「譲歩の返報性」が特に有用なのですが、最後の決断をしてもらうために価格をもう一段下げる、またはオプションなど贈答品を付けるなどを行うと、「そこまでしてくれるなら」と買い手側で「譲歩の返報性」が作動し、行動(=購入)をしてくれやすくなります。

 

また、人は何かを購入する際に、「これはどこに属する費用」という形で分類を無意識含め行っていますが、これを「メンタルアカウンティング」と呼びます。

極端な例になりますが、例えば旅行パッケージ購入を迷っている人に、これは「旅行の費用」ではなく子供の今後の成長のために価値ある経験をしてもらうための「教育の費用」と捉えてもらい、メンタルアカウンティングでの分類変えをして、背中を押すというのもアリではないかと思います。

 

また、自身の製品・サービスが複数種類用意されているが、特に購入してもらいたいものがあるという状況なら、「デフォルト効果」も利用できると思います。

製品などでセットで購入してほしい延長保証などがある場合、セットで購入するのをデフォルトにしておき、購入しない場合は1アクション必要になるようにしておくだけで、延長保証などの購入率も変わってくると思います(商売上の倫理に反するやり方はもちろんダメですが)。

 

一方で、「Action(行動)」を阻害するバイアスとしては、「現在バイアス」や「現状維持バイアス」があります。

「現在バイアス」は将来的に良くなることが分かっていても、人は現在の方を重要視する傾向で、「BXストラテジー 実践行動経済学2.0 人を動かす心のツボ」においても「いま・ここ・わたし」というメッセージ、アプローチが有効であると書かれています。

「将来的に」というメッセージや訴求ではなく、今まさしくここであなたにとって有用というメッセージで「現在バイアス」を逆手に取るのが得策です。

 

また、「現状維持バイアス」はこれを購入したら、より良くなることは分かっているが、変化を避け、安定を志向する傾向が購入(=変化)を阻害してしまう現象です。

そこは、先述した「損失回避」などを織り交ぜ、現状のままだとこれだけ損します、という訴求をすることで「現状維持バイアス」の回避を図ることが得策です。

 

さて、今回は「AIDMA」と行動経済学の関係性を見てきましたが、各段階において異なるバイアスや理論が関連するのでは、やこのバイアス・理論は他の段階でも関連してくるのでは?などのご意見もあるかと思います。

先に寄稿した営業プロセスやPDCAなども同様ですが、今回の内容をたたき台として、今後更に改良していければと思っていますので、ぜひコメントなどでご協力いただければと。

 

では、また次回!