皆さん、こんにちは。
本ブログは行動経済学を実際のビジネスに適用していくことを主目的としています。
行動経済学の理論を中心に、行動心理学や認知心理学などの要素も交え、ビジネスの様々なシーンやプロセス、フレームワークに適用し、実践に役立てていきたいと思っています。
最近、BtoBの老舗IT企業によるテレビCM活用が目立ち始めているという記事を目にしました。
テレビCMは、もともとBtoC(企業対消費者)やマスマーケットに訴求するための広告手法として広く利用されてきました。日用品や家電など、広範な層に向けて製品の魅力を伝え、一気に多くの消費者の関心を引くことを目的としています。そのため、WebやSNSなどデジタル広告出稿が一般的な企業間取引(BtoB)を専門とするIT企業がテレビCMに注力するのは一見すると不自然にも思えるかもしれません。
BtoB企業は通常、特定の企業に対して専門的なサービスを提供するため、マス向けの広告がそのビジネスモデルにどのように役立つのか疑問に感じる人も多いでしょう。しかし、行動経済学の視点で見ると、この戦略には十分な合理性があることがわかります。
テレビCMがもたらす行動経済学的効果
ハロー効果(Halo Effect)でブランドイメージを強化する
「ハロー効果」は、ある個人や物事に対するポジティブな印象が、他の要素にも影響を及ぼす現象です。BtoB企業がテレビCMで著名なタレントを起用する理由は、視聴者がタレントに抱く好感を企業イメージに転化させるためです。たとえば、SCSKが「今田美桜」さんを起用したCMは、IT企業の堅実かつ信頼感のあるイメージを効果的に伝えています。
特にITサービスのように、消費者にとって目に見えにくい製品を扱うBtoB企業にとって、ポジティブな印象を視覚的に与えることは、信頼感の構築に欠かせない要素です。
単純接触効果(Mere Exposure Effect)でブランド認知を高める
「単純接触効果」は、繰り返し接触することで、好感度や親近感が増す現象です。テレビCMは、視覚と聴覚を同時に刺激し、視聴者の記憶に強く残る効果があります。たとえば、あるIT企業のCMで「クラウド」や「セキュリティ」などの専門用語が何度も登場することで、視聴者はその企業の名前やサービスを自然に記憶します。
Web広告も繰り返し表示されることで同様の効果がありますが、テレビCMはスキップされにくく、視聴者の注意を強制的に引きつける点で優れています。
リスク回避バイアスと信頼の構築
「リスク回避バイアス」とは、人々が利益よりも損失を避けることに強い動機付けを感じる心理的傾向です。ITソリューションのような大規模な投資を必要とするサービスでは、企業はリスクを避け、信頼できるパートナーを選ぼうとします。テレビCMを通じて「大手で信頼できる企業」というメッセージを視覚的に伝えることは、顧客に安心感を与え、リスク回避の判断をサポートします。
テレビCMとWeb広告の比較:BtoB企業にとっての最適な選択肢は?
テレビCMとWeb広告は、それぞれ異なる特性とメリットを持っています。BtoB企業にとって、どちらが最適な選択肢であるかは、ターゲット層と目的に応じて異なります。
テレビCMの強み
テレビCMはマスリーチを強みとしており、一度に多くの視聴者にメッセージを伝えることができます。特に、報道番組やビジネス関連の特番、さらには一部のドラマやバラエティ番組に的を絞ることで、経営層やビジネスパーソンに対してピンポイントで効果的に訴求できます。また、スキップされにくい点も、視聴者の記憶に残りやすいというメリットです。
Web広告の強み
Web広告は、ターゲティングの精度が非常に高く、特定の業種や役職の視聴者にピンポイントでメッセージを届けることができます。GoogleやFacebookなどのプラットフォームでは、ユーザーの行動データに基づいて広告を出稿できるため、BtoB企業が特定のニッチな市場にアプローチするのに適しています。ただし、スキップされやすいという弱点があり、繰り返し表示されても記憶に残らない可能性が高いです。
採用活動への効果とブランド力の向上
テレビCMは、ブランド認知度を高めるだけでなく、採用活動にも大きな効果を発揮します。IT業界では特に、優秀なエンジニアや技術者の確保が重要な課題です。テレビCMを通じて企業の知名度が上がると、求職者にとって「知っている企業」として認識されやすくなり、自然と応募の候補に挙がりやすくなります。
さらに、視覚的に大手企業であることを訴求することで、求職者は「信頼できる企業」「成長できる企業」として感じ、結果的に優秀な人材を引き寄せる効果が期待できます。
まとめ
BtoB企業がテレビCMに注力する理由は、単に知名度向上だけではありません。行動経済学の「ハロー効果」や「単純接触効果」を活用し、企業の信頼性やブランド価値を強化することが主な目的です。有名なタレントを起用することで、視聴者がそのタレントに持つ好意的な印象を企業へ転移させることができ、親しみや信頼感を醸成します。また、繰り返しCMを露出することで、視聴者の記憶に定着させ、企業の存在感を高める効果があります。
さらに、BtoB企業は広くマスに訴えるというよりも、特定のターゲット層に効果的にリーチすることを狙っています。ビジネスパーソンや経営層が多く視聴する時間帯や番組、例えば報道番組やビジネス関連の特番、さらにはドラマやバラエティ番組の一部に的を絞ることで、限られたターゲットに対しても効果的な訴求が可能です。これにより、知名度向上と同時に、新規顧客獲得や優秀な人材の確保にも貢献します。
したがって、BtoB企業がテレビCMを選択する理由は、伝統的なメディアであるテレビを利用しつつ、的確なターゲット層に向けて効率的に訴求するための戦略的な選択であり、行動経済学的にも合理的な手法であると言えます。
次回も、ビジネスに役立つ行動経済学の理論を紹介します。お楽しみに!