ビジネス×行動経済学

行動経済学や行動心理学など行動科学の理論やバイアスをビジネスに適用することを目的にしたブログです

【コラム㉚】 カフェワーカーの長居問題に迫る――効果的な対策と心理分析

皆さん、こんにちは。
本ブログは行動経済学を実際のビジネスに適用していくことを主目的としています。

行動経済学の理論を中心に、行動心理学や認知心理学などの要素も交え、ビジネスの様々なシーンやプロセス、フレームワークに適用し、実践に役立てていきたいと思っています。


カフェワーカーが長時間滞在する現象は、現代のカフェ経営者にとって無視できない問題となってきているようです。

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特に個人経営のカフェでは、回転率が落ち、収益に悪影響を及ぼします。かくいう著者もカフェでリモートワークをすることが少なくなく、その快適さや集中力の高まりを感じています。しかし、コーヒー1杯で長時間滞在するカフェワーカーは、店舗経営にとって大きな課題です。本記事では、カフェワーカーが長時間滞在する理由やカフェ経営者側の課題を、行動経済学を中心とした理論やバイアスを基に解説し、効果的な対策を提案します。

 

カフェワーカーの現状

カフェで作業をするカフェワーカーは、2023年のカフェ業界で注目される存在となっています。記事によると、IT企業に勤める28歳の男性は、家では集中できないため、カフェでリモートワークを行い、コーヒー1杯で約4時間を過ごすそうです。また、カフェワーカーの増加により、あるカフェでは「8割がカフェワーカー」という状態にまでなっており、経営者が「回転率を上げるか、値上げするしかない」と悩む状況に直面しているそうです。

 

カフェワーカーが長時間利用する心理

  • サンクコスト効果: カフェワーカーは一度コーヒー代を支払うと、その支出を取り戻そうとして長時間滞在しがちです。「少しでも多く作業をこなそう」とする心理は、追加コストを発生させずに環境を利用できるというサンクコストの影響を強く受けています。
  • 現状維持バイアス: 人は一度居心地の良い環境に入ると、その状態を維持したがる傾向があります。カフェという快適な作業環境に慣れると、移動や変化を避け、そこに長く留まろうとするのです。
  • 心理的安全性: カフェは公共の場でありながら適度なプライバシーが確保されているため、心理的安全性が高まります。この安心感が、カフェでの長居を促進する要因の一つとなっています。
  • フロー体験: カフェの適度な雑音や環境が、作業に集中しやすい「フロー状態」を作り出します。このため、カフェワーカーは、カフェ内で作業することで高い集中力を発揮し、結果的に長時間滞在するようになります。

 

コーヒーショップ側がカフェワーカーに長時間利用される心理

  • 機会費用: カフェ経営者は、長時間滞在する客によって他の客を失う「機会費用」を強く感じています。本来短時間滞在を想定していたビジネスモデルが崩れ、利益が減少することに対して不満を抱いています。
  • 不公平感: 長時間滞在するカフェワーカーは、他の顧客に対して不公平な状況を生み出していると感じることがあります。特に、他の顧客が座れない状況が続くと、この不公平感は店員や経営者のストレスとなり、フラストレーションが蓄積されます。
  • コルチゾールの分泌: カフェ経営者や従業員にとって、長時間滞在する客はストレスの原因となり、ストレスホルモンであるコルチゾールが増加します。これにより、冷静な対応が困難となり、感情的な対策を取るリスクが高まります。

長時間居座るカフェワーカー対策に苦慮するコーヒーショップオーナー(DALL・Eで作成)



カフェワーカーの長時間利用を削減する各種対策

  • 時間軸の料金設定: コーヒー1杯の価格設定をやめ、「1時間◯円」という時間課金制を導入することで、滞在時間に対するコスト意識を高めます。これは、カラオケボックスインターネットカフェなどでよく見られる料金体系で、時間に応じて料金が増加するため、自然と利用者の滞在時間が抑制される効果があります。これにより、カフェワーカーは長時間の滞在を控え、店の回転率を向上させることが期待できます。
  • デフォルトルールの設定: 90分ごとに追加注文が必要とするルールを設定し、カフェワーカーに行動のリミットを提示します。時間制限を明確にすることで、自然な回転率の向上が期待できます。
  • 環境デザインの変更: 店内の照明や音楽を調整し、長時間滞在が快適でなくなるような空間設計を導入します。長時間滞在を減らし、自然に客が回転する仕組みを作ります。
  • インセンティブ提供: 短時間での退店者に対して、次回の割引クーポンなどのインセンティブを提供し、滞在時間を短縮させる行動を強化します。
  • 視覚的フィードバックの導入: 店内の混雑状況や待っている客の様子をカフェワーカーに見せることで、他者への配慮を促します。これにより、長時間滞在することが他の客に与える影響を認識させ、行動を変えるきっかけを提供します。

 

まとめ

カフェワーカーの長時間滞在問題は、サンクコスト効果や現状維持バイアスといった心理的要因や、フロー体験による集中効果など、さまざまな要素が絡み合っています。これに対処するためには、単なる値上げや禁止措置ではなく、顧客の心理や行動を理解した柔軟な対策が求められます。時間軸の料金設定や環境デザインの調整、デフォルトルールの導入といった具体的な方策は、カフェワーカーに無理なく行動を変えてもらいながら、店舗の経営にもプラスの影響を与えるでしょう。

今後は、カフェワーカーと一般利用者の双方のニーズを満たす新たなビジネスモデルの構築が鍵となります。例えば、カラオケボックスのように時間課金制を導入する一方で、特定の作業専用スペースを設けるなど、異なるニーズに応じたサービス提供が可能です。さらに、インセンティブやフィードバックの導入により、顧客が自発的に滞在時間を調整するよう促すことで、長期的に持続可能な経営を目指すことができます。

カフェは単なる飲食店としてだけでなく、現代社会における「心のオアシス」としての役割を担っています。そのため、快適さを維持しつつも健全な運営を行うために、顧客の行動を理解した上での適切な対策が重要です。

 

次回も、ビジネスに役立つ行動経済学の理論を紹介します。お楽しみに!