皆さん、こんにちは。
本ブログは行動経済学を実際のビジネスに適用していくことを主目的としています。
行動経済学の理論を中心に、行動心理学や認知心理学、社会心理学などの要素も交え、ビジネスの様々なシーンやプロセス、フレームワークに適用し、実践に役立てていきたいと思っています。
ソニーが巨額の開発資金を費やしながら、わずか2週間でゲームタイトルの公開停止に踏み切ったという記事を見かけました。
ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が開発したゲーム「CONCORD」が、リリースからわずか2週間で終了となった出来事は、ゲーム業界において大きな衝撃を与えたようです。私が同記事を読んで感じたのは、この失敗は、ゲーム業界における「サンクコスト」の代表的な事例になるのではと感じたからです。また、皮肉にもゲームのタイトル「CONCORD(コンコード)」が「コンコルド効果(Concorde Fallacy)」という別名を持つ同理論に音が似ていることにも興味をひかれました。そこで、今回はコラムとして、この「CONCORDの失敗」を行動経済学的観点から分析してみたいと思います。
サンクコストの罠
「サンクコスト」とは、すでに投入された時間や資金など、回収できないコストに囚われることで、合理的な判断ができなくなる現象です。この「サンクコストの誤謬」は、長期間にわたるプロジェクトや大規模な投資が絡む場合に特に顕著になります。
「CONCORD」の開発には8年間、100億円以上が費やされました。この規模のプロジェクトでは、多くのリソースがすでに投入されているため、途中で中止するという選択肢が現実的に難しくなります。市場ニーズや競争環境の変化に対応できず、最終的に失敗してしまうのです。このような状況が「サンクコストの罠」そのものであり、企業は冷静な判断が難しくなります。
先述の通り、興味深いことに、「CONCORD」という名前は、「コンコルド効果(Concorde Fallacy)」と音が似ています。これは、かつてのイギリスとフランスが共同開発した超音速旅客機「コンコルド」に由来する理論で、大規模な投資が商業的な失敗にもかかわらず続けられた事例です。この名前の一致が、ゲーム業界で起きた現象とどこか皮肉的に響きます。

CONCORDの失敗が示す、その他行動経済学的要因
「CONCORD」の失敗は、サンクコストの誤謬以外にも、いくつかの行動経済学的な理論と密接に関係しています。以下に具体的な分析を示します。
参照依存性(Reference Dependence)とアンカリング
「CONCORD」の価格は4480円でしたが、これは人気タイトル「オーバーウォッチ 2」や「VALORANT」などの無料ゲームと比較すると高額に感じられました。参照依存性の理論では、消費者は既存の選択肢と比較し、新しい選択肢の価値を判断します。この価格差が、ユーザーが「CONCORD」を選ばなかった一因と考えられます。
損失回避(Loss Aversion)
ゲームがリリースからわずか2週間で終了したことで、購入者は全額返金されたものの、「お金を支払った」という事実が損失として認識され、心理的な負担が大きかった可能性があります。損失回避の理論では、人々は損失を回避することに強く反応します。この感覚が「CONCORD」に対するネガティブな評価を増幅させたと考えられます。
選択過多(Choice Overload)
「CONCORD」が属するジャンルである「ヒーローシューター」は、既に多くの競合タイトルが存在していました。選択過多の理論では、選択肢が多すぎると消費者は判断に迷い、結果的に何も選ばないか、既存の選択肢に戻る傾向があります。新規参入タイトルとしての「CONCORD」は、過剰な選択肢に埋もれてしまったと考えられます。
「CONCORD」の失敗から学ぶ教訓と提案
「CONCORD」の失敗は、ゲーム業界において非常に貴重な教訓を提供します。以下に、サンクコストの罠を回避し、プロジェクトの成功率を高めるための具体的な提案を示します。
撤退基準のKPIを設定し、タイムリーな判断を行う
プロジェクトの初期段階で、撤退や中止の判断基準となるKPI(Key Performance Indicator)を設定し、プロジェクトの進行に合わせて定期的に見直すことが重要です。具体的には、ユーザーテストや市場調査の結果をもとに、売上目標やユーザー数の増減などの定量的な指標を設定します。これにより、感情に左右されず、適切な時期に冷静な判断ができ、サンクコストの罠を回避できます。特に、事前に撤退ポイントを明確に設定することで、プロジェクトの進行中にサンクコストにとらわれない意思決定が可能になります。
市場調査とユーザーテストの強化
市場調査やユーザーテストを早期に実施し、消費者のニーズや競争環境を把握することが不可欠です。ユーザーのフィードバックを収集し、ベータ版の段階で消費者の反応を基に改善を行うことで、リリース後のリスクを最小限に抑えることができます。また、競合分析も併せて行い、参入市場の正確な把握を行いましょう。
柔軟な価格戦略を採用する
競争の激しい市場においては、柔軟な価格戦略が成功のカギとなります。フリーミアムモデルや期間限定の割引キャンペーン、ゲーム内課金を活用することで、初期の参入障壁を下げ、ユーザーを獲得しやすくします。また、競合タイトルの価格帯を参考に、戦略的な価格設定を行うことも有効です。
選択肢をシンプルにし、ユーザー負担を軽減する
ゲームの選択肢が多すぎると、ユーザーが選択に疲れてしまう選択過多の問題が発生します。段階的にゲームの機能やキャラクターを開放するデザインにすることで、ユーザーが直感的に楽しめる体験を提供でき、プレイ意欲を高めることができます。
まとめ
「CONCORD」の失敗は、サンクコストの罠が企業の意思決定に与える影響を示す代表例です。巨額の資金と長い開発期間が投入されながらも、市場やユーザーの変化に対応できず、合理的な判断ができない状況に陥りました。これを避けるためには、プロジェクト初期に撤退基準となるKPIを設定し、感情に左右されずデータに基づいた意思決定を行うことが重要です。また、価格設定や選択肢のシンプル化、ユーザー視点の強化が成功の鍵です。サンクコストに囚われず、柔軟に対応することが、今後のプロジェクトにおける成功を導くでしょう。
次回も、ビジネスに役立つ行動経済学の理論を紹介します。お楽しみに!