ビジネス×行動経済学

行動経済学や行動心理学など行動科学の理論やバイアスをビジネスに適用することを目的にしたブログです

【コラム51】 トランプ氏の圧勝: 内集団 vs. 外集団の戦略で読み解く2024年大統領選

お題「2024年米大統領選の所管」
皆さん、こんにちは。
本ブログは行動経済学を実際のビジネスに適用していくことを主目的としています。

行動経済学の理論を中心に、行動心理学や認知心理学社会心理学などの要素も交え、ビジネスの様々なシーンやプロセス、フレームワークに適用し、実践に役立てていきたいと思っています。

 

2024年の米大統領選挙は、当初「どちらが勝つか分からないほどの接戦」というのが大方の予想でしたが、最終的にはトランプ氏が圧勝する結果となりました。

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以前のブログで、トランプ氏とハリス氏の選挙戦略は「内集団 vs. 外集団」という対立構図が顕著であるとお伝えしましたが、トランプ氏は「アメリカを再び偉大にする(MAGA)」を掲げ、白人労働者層や保守層といった特定の集団に強く訴えかける戦略を取りました。これに対してハリス氏は多様性を重視し、全ての国民を包摂するリーダー像を前面に打ち出しましたが、トランプ氏のメディア戦略や特定層への強力な訴えが支持基盤を固める結果となりました。

behavioral-economics.hatenablog.com


今回の選挙は、アメリカの分断を浮き彫りにすると同時に、日本にも多くの示唆を与えるものです。この記事では、トランプ氏とハリス氏の選挙戦略を行動経済学の観点を中心に分析し、日本における応用可能性を探りたいと思います。

 

トランプ氏の内集団戦略

トランプ氏の戦略は、主に「内集団バイアス」を巧みに利用したものでした。彼は「アメリカ第一主義(MAGA)」というシンプルで力強いスローガンを掲げ、白人労働者層や地方の保守層といった、社会や経済から取り残されていると感じる層に向けて「あなた方は私の仲間である」というメッセージを発信しました。特に移民やリベラル層を「外集団」として設定することで、「自分たちの生活を守るために戦うリーダー」という印象を強め、内集団の結束を高めました。

また、トランプ氏は「過去の繁栄への回帰」を訴えるメッセージを繰り返し伝えることで「現状維持バイアス」を効果的に利用しました。経済状況の悪化に伴い、インフレや生活費の高騰に不安を抱える層に対して、「かつての安定したアメリ」を再現するというノスタルジックな訴えが共感を生み、支持基盤を強固にしました。このようにして、トランプ氏は特定の集団に対して「彼らの代弁者」というリーダーシップを発揮し、支持層の一体感を確立しました。

 

ハリス氏の外集団戦略

一方、ハリス氏の選挙戦略は「多様性」を中心に据え、アメリカ社会の多文化主義を象徴するリーダー像をアピールしました。彼女は、移民二世である自身の背景を活かし、特に社会的少数派やリベラル層といった外集団に支持を訴えかけました。この戦略は、特に若年層や多様性を重視する層からの支持を得るためのアプローチとして機能しましたが、保守的な価値観を持つ層にはやや響かない部分もありました。

ハリス氏はまた、彼女のメッセージを支持する有権者に「社会的証明」や「確証バイアス」を活用しました。多様性を推進し、社会的包摂を重視することで、同じ価値観を共有する層からの共感を呼び、その支持を固めました。社会的証明の理論に基づき、外集団に属する有権者が周囲の支持を見てハリス氏を支持するという流れが生まれました。しかし、従来の価値観を重視する層には違和感を与える可能性もあり、内集団との明確な対立構造が形成される結果となりました。

 

戦略比較:内集団と外集団の対立

トランプ氏とハリス氏の戦略は、「内集団」と「外集団」という対照的なアプローチを基盤にしていました。トランプ氏は伝統的なアメリカの価値観に訴えかけることで「内集団」の結束を強化し、外集団との対立を明確化しました。特に、彼は自身の支持層に対し「アメリカを守るリーダー」としてのメッセージを発信し、内集団バイアスと現状維持バイアスを巧みに利用することで、支持層の忠誠心をさらに高めました。

一方、ハリス氏は「多様性」を中心に、外集団を包摂しようとする姿勢を強調しました。彼女の戦略は、社会的証明を通じて多様性を尊重する層を取り込み、未来志向のリーダーとしてのイメージを強めました。しかし、内集団を強く意識する保守層に対しては支持を広げることが難しく、結果としてトランプ氏の圧勝という結果に至りました。この対立構図は、アメリカ社会の分断を強く示すものとなり、今後のアメリカ社会の方向性にも大きな影響を与えるでしょう。

トランプ氏の圧勝-2024年米大統領選(DALL・Eで作成)

日本への示唆と応用可能性

今回の米大統領選で示された「内集団 vs. 外集団」の構図は、日本にとっても示唆に富む戦略です。地方創生や地域格差の解消といった課題において、日本でも特定の層に訴えかける「内集団戦略」を応用することが考えられます。たとえば、地方経済の立て直しや地域の結束を強化するためには、地方のリーダーが「自分たちの生活を守る存在」として地元住民に寄り添うアプローチが効果的です。特に、地域格差や経済的不平等に関して「地域住民の味方である」という姿勢を明確に打ち出すことで、地元の支持を得やすくなります。

また、トランプ氏の再選によって「アメリカ第一主義」が復活し、日米間の経済や外交において緊張が生じる可能性もあります。過去のトランプ政権下での貿易摩擦を考慮すると、日本企業は今後、リスクヘッジの強化や柔軟な戦略の再検討が求められるでしょう。日本としては、経済の安定性を確保しつつ、地域格差の是正や地元住民の結束を重視する政策の推進が求められます。

 

まとめ

2024年の米大統領選挙で際立った「内集団 vs. 外集団」の戦略対立は、アメリカの分断を強く浮き彫りにしました。トランプ氏は、社会や経済から疎外されている層に対して強力に訴えかけ、「自分たちのリーダー」としてのメッセージを発信しました。内集団戦略を駆使することで、支持層に一体感と信頼感を提供し、過去の繁栄を取り戻すという安定感を強調することで圧勝を遂げました。一方、ハリス氏は多様性と包摂をキーワードに、異なる価値観を持つ層を巻き込む戦略を展開しましたが、内集団バイアスの強い層には響かず、選挙戦を優位に進めることはできませんでした。

今回の選挙結果から日本が学べることは、地域格差や社会的分断を是正するためのリーダーシップの在り方です。地方のリーダーが「自分たちの味方」として地域住民に寄り添うことで、地域の結束力を高め、安心感を与えることが重要です。また、トランプ氏の再選が日米関係に影響を及ぼす可能性が高まる中、日本は国際的なリスクを見据えた戦略が求められています。社会の協調と安定を基盤にした政策を進め、地域格差是正と経済成長を支えるためのリーダーシップが、日本でも今後ますます求められるでしょう。

 

次回も、ビジネスに役立つ行動経済学の理論を紹介します。お楽しみに!