ビジネス×行動経済学

行動経済学や行動心理学など行動科学の理論やバイアスをビジネスに適用することを目的にしたブログです

【コラム㉘】 逆張り戦略の巧妙な仕掛け――『高額』と『背徳』が消費者を惹きつける理由

皆さん、こんにちは。
本ブログは行動経済学を実際のビジネスに適用していくことを主目的としています。

行動経済学の理論を中心に、行動心理学や認知心理学などの要素も交え、ビジネスの様々なシーンやプロセス、フレームワークに適用し、実践に役立てていきたいと思っています。

 

本日は、日本経済新聞の下記2つの記事を見ていて、そこに共通する戦略が見えてきたので、その点について言及したいと思います。

www.nikkei.com

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その共通する戦略というのは「逆張り戦略」なのですが、企業があえて主流のトレンドに逆行することで消費者の関心を惹く戦略で、物価高騰や節約志向の中で高額商品を打ち出したり、健康志向が強まる中で高カロリーな「背徳感」を前面に押し出す商品を販売することがその一例です。今回のコラムでは、ファミリーマートの「背徳のコンビニ飯」とニップンの「オーマイプレミアム」冷凍パスタを取り上げ、行動経済学を中心とした観点で、その狙いや消費者に与える心理的インパクトを探求していきます。

 

逆張りが消費者心理に与える影響

逆張り戦略の核心は、消費者が一見すると合理的に行動しているように見えながら、実際には多くの選択が感情や無意識のバイアスに影響されている点です。消費者は、健康や節約といった日常的な制約を意識しつつも、無意識のうちに「自分を甘やかしたい」「特別感を味わいたい」という潜在的な欲求を持っています。

消費者を引き付ける『逆張り』戦略(DALL・Eで作成)
快楽と自己報酬のバランス

ファミリーマートの「背徳のコンビニ飯」は、通常であれば避けられるべき高カロリーな食品ですが、「背徳感」というコンセプトを商品そのものに組み込むことで、消費者に一種の快楽を提供しています。これはフレーミング効果と呼ばれていますが、健康に悪いとされる商品を「背徳」という視点から提示することで、消費者はその選択を自分に対するご褒美として正当化しやすくなります。これにより、背徳感が快楽へと変わり、消費者は自己制御を一時的に手放してその商品を選ぶのです。

さらに、自己制御を長期間続けることにより脳は疲労し、抑圧された欲求が強まります。この抑圧された欲望が解放される瞬間に、脳内の報酬系が活性化し、ドーパミンが放出されることで、食べる行為が強い快感をもたらします。高カロリーな食事が脳に強く記憶されると、消費者はそれを再び求める傾向が強まり、繰り返し商品を購入する動機となるのです。

 

高価格商品がもたらすプレミアム体験

一方、ニップンの「オーマイプレミアム」シリーズでは、物価高や節約志向の中でも、あえて高価格の商品を提供する逆張り戦略が展開されています。ここでも、消費者心理と脳内のメカニズムが巧みに働いています。

スノッブ効果と自己投資

スノッブ効果と呼ばれる理論があるのですが、これは、他者が持っていない高価格商品を選ぶことで、消費者が自分のステータスを高めようとする心理です。ニップンの「オーマイプレミアム」シリーズは、消費者に対してこのスノッブ効果を利用し、特別感や贅沢感を提供しています。高価格の商品を選ぶことで、消費者は「特別な体験をしている」という満足感を得ることができます。

さらに、消費者が高価格商品を購入することは自己投資として機能します。普段は節約を心がけている消費者でも、時には自分にご褒美を与えたいという感情が生まれます。高額な商品を選ぶことで、自分に対する報酬感が高まり、脳内で自己評価が強化されるのです。このプロセスにより、消費者は「自分は価値のある選択をしている」というポジティブな感情を抱き、長期的な満足感を得ることができます。

期待と報酬

価格が高い商品に対しては「高品質である」という期待が自然に生まれます。消費者が高額商品を手にする際、脳内ではドーパミンが分泌され、その期待がさらに高まります。ニップンの冷凍パスタは、豪華なパッケージや具材の多さ、濃厚な味わいを強調することで、この期待感をさらに強化しています。こうした要素は、消費者の脳内で報酬系を刺激し、購入後の満足感を高め、次回の購入意欲を高める役割を果たします。

 

制約からの解放としての逆張り戦略

ファミリーマートとニップンの両方の商品に共通するのは、消費者に対して日常的な制約からの「解放」を提供する点です。健康志向や節約志向といった社会的なプレッシャーに対して、あえてその反対の選択肢を提示することで、消費者に一種の自由と快楽を感じさせるのです。

認知バイアスと非合理的選択

人々は常に合理的な選択をするわけではなく、認知バイアスに影響されることがよくあります。例えば、「高カロリーは悪い」という常識がある中で、あえて「背徳感」を売りにすることで、消費者はその常識を一時的に無視し、自分に許しを与えます。また、「高価格商品は品質が良い」というバイアスも働き、消費者は実際の価値以上にその商品を高く評価します。こうしたバイアスは、逆張り戦略によって意図的に引き出され、消費者に非合理的な選択を促すのです。

短期的満足感と長期的自己評価

背徳的な高カロリー食品は、消費者に短期的な満足感を与えます。一方で、高価格商品は、購入後の長期的な自己評価を高め、消費者に継続的な満足感をもたらします。脳内では、これらの異なる報酬システムがバランスよく働き、消費者の購買行動を支える重要な要因となっています。消費者は、自分の欲求に応じて短期的な満足感や長期的な自己評価を求め、それに基づいて選択を行います。

 

まとめ

ファミリーマートの「背徳のコンビニ飯」やニップンの「オーマイプレミアム」の成功は、消費者が日常的に感じる制約や健康志向、節約志向に対して「解放」や「特別感」を提供することで実現しています。これらの逆張り戦略は、消費者の潜在的な欲望や快楽追求の心理を巧みに利用しており、日常的な自己制御から解放される瞬間を作り出します。さらに、消費者の非合理的な選択やバイアスに働きかけ、長期的な満足感や自己投資感を強化しています。

他の成功事例としては、ラグジュアリーブランドが挙げられます。ミニマリズムが流行する中、エルメスルイ・ヴィトンは高価格で豪華なデザインを前面に押し出し、消費者に「自分は特別な存在である」と感じさせることで強いブランド価値を確立しました。また、ベン&ジェリーズのアイスクリームは、シンプルで万人向けのフレーバーが主流の中で、独特で豪華なフレーバーの多様性を提供し、消費者に「冒険感」や「特別な体験」を与えることで成功を収めています。

これらの逆張り戦略は、消費者が抱える制約や欲望を理解し、その隙間を巧みに突くことで、強力な購買動機を作り出す効果的な手法です。

 

次回も、ビジネスに役立つ行動経済学の理論を紹介します。お楽しみに!