皆さん、こんにちは。
本ブログは行動経済学を実際のビジネスに適用していくことを主目的としています。
行動経済学の理論を中心に、認知心理学や社会心理学などの要素も交え、ビジネスの様々なシーンやプロセス、フレームワークに適用し、実践に役立てていきたいと思っています。
はじめに
今回は心理的安全性を実現するための行動経済学的アプローチという観点で、考察していきたいと思います。
心理的安全性は、職場環境において従業員が安心して意見を述べたり、ミスを認めたりできる状態を指します。近年、この概念は組織の生産性やイノベーションに密接に関連する重要な要素として注目されています。
そして、リモートワークの普及に伴い、心理的安全性の維持が課題となってきています。物理的な距離がコミュニケーションの壁となり、従業員が感じる孤立感や不安感が増大することが懸念されだしているため、多くの企業はオンラインツールを活用した定期的なコミュニケーションや、リーダーシップの役割強化を通じて、心理的安全性を確保しようとしています。
なぜなら、心理的安全性を高めることが、企業・組織の持続的な成長と競争力強化につながると期待されているからです。

心理的安全性への企業の取り組み
心理的安全性は組織行動学を研究するエドモンドソン氏が1999年に提唱した心理学用語ですが、先進的な海外企業はいち早くそれをビジネスに取り入れきました。
代表的な事例としては、Googleの取り組みがあるかと思います。
同社は2012年に行った「プロジェクト・アリストテレス」で、心理的安全性が効果的なチームの構成要素の一つとして特定しました。
このプロジェクトは、効果的なチーム運営に必要な条件を特定することを目的とし、様々なデータを収集・分析しましたが、その結果、チームの成功に最も重要な要素は「心理的安全性」であると特定しました。
このプロジェクトの結果はGoogle内部だけでなく、ビジネス界全体にも広く影響を与え、マイクロソフト、Airbnb、SAPなどでも、心理的安全性の実現に向けて積極的な取り組みが行われています。
日本においても、関連書籍も多く出てきていますし、大企業を中心に心理的安全性の重要性を認識し、取り組む企業も増えているようです。
2022年からは「心理的安全性AWARD」という、心理的安全性を達成した企業を表彰する取り組みなども開始されています。
達成度合いによって、PLATINUM、GOLD、SILVERという表彰の基準が用意されていて、最新の2024年度では「神戸豚骨らーめん賀正軒」と「三菱電機モビリティ」が最高ランクのPLATINUM RINGを受賞しています。

このAWARDはどのように決まるのかというと、以下4因子を基準としているようです。
心理的安全性の4因子(①話しやすさ、②助け合い、③挑戦、④新奇歓迎)の観点に基づいて審査をします。
4つの因子とは、その職場・そのチーム内で次のことを指します。
①「話しやすさ」因子:意見の表明や違和感の指摘が、誰でもできること
②「助け合い」因子:相談しあえる雰囲気があり、トラブルの際にも個人を責めるのではなく解決策を考える
③「挑戦」因子:面白いアイデアを共有しあえ、またチャレンジや挑戦が歓迎される
④「新奇歓迎」因子:役割に応じた強み・個性を発揮しあえ、また新しい物の観かたを歓迎できる
(出典: 心理的安全性AWARD 審査のポイント)
今回の心理的安全性を実現するための行動経済学的アプローチについても、この4因子を基準として見ていきたいと思います。
心理的安全性を実現するための行動経済学的アプローチ
①「話しやすさ」因子:意見の表明や違和感の指摘が、誰でもできること
まず①に関しては、「アンカリング効果」が関連してくると思います。
リーダーもしくは影響力の強い人が先に発言してしまうと、その情報がアンカーになってしまい、自由闊達な意見が出てこなくなってしまいます。
そのアンカーを避ける、即ちアンカリング効果を回避することが肝要で、リーダーなどは意識してニュートラルな意見を出すようにするか、またはモデレーター役に徹し自身は発言せず、参加者全員に発言を促すことに徹するのが良い結果をもたらします。
② 「助け合い」因子:相談しあえる雰囲気があり、トラブルの際にも個人を責めるのではなく解決策を考える
助け合いには「返報性の原理」が有用です。
返報性の原理は何かをしてもらったら、何かを返さないといけないといわば自動的に発動し、結果信頼と協力の関係を強化します。
従業員が助け合い、至らぬ点や異なる意見を追求するのではなく、解決策を共に考える環境が整うと、自然と「助けてもらったら助け返す」という行動が生まれます。
これにより、職場全体の信頼関係が強化され、ポジティブなフィードバックループが形成され、結果心理的安全性が高まっていきます。
③ 「挑戦」因子:面白いアイデアを共有しあえ、またチャレンジや挑戦が歓迎される
チャレンジや挑戦の阻害要因になるのは、「現状維持バイアス」なので、その打破が必要になります。
現状維持バイアスが強い環境では、現状を変えるリスクを避けるために新しいアイデアや挑戦を避ける傾向が出てきます。
しかし、挑戦や面白いアイデアが歓迎される文化があると、このバイアスを克服する手助けになるので、変化を恐れず、積極的に新しい試みを行うようになります。
もちろん、現状を変えることが全て正義ということではないので、行き過ぎや一辺倒には注意が必要です。
④ 「新奇歓迎」因子:役割に応じた強み・個性を発揮しあえ、また新しい物の観かたを歓迎できる
「新奇」というのは造語で、新しいまたは奇抜なアイデアも歓迎するという意味になりますが、そこを阻害するのは「確証バイアス」です。
「確証バイアス」は、自分の思い込みや願望を強化する情報ばかりに目が行き、そうではない情報は軽視してしまう傾向を指しますが、リーダーや周辺の人が、自分の意見に反するまたは前例のない突飛な意見にも耳を傾け、尊重する姿勢を見せることで、メンバーは安心して意見を述べることができるようになる。
特にブレーンストーミングをする際は、この姿勢は大事で、確証バイアスが存在するチームだと、目新しいアイデアなど期待できず、リーダーや影響力の強い人の意見に引っ張られてしまうことが多くなってしまいます。

まとめ
行動経済学的観点で、職場における心理的安全性を実現・向上させる方法について検討してきましたが、心理的安全性は、従業員が自由に意見を述べたり、失敗を恐れずに挑戦できる環境を意味し、組織の生産性やイノベーションにとって重要な要素です。
話しやすさの確保には「アンカリング効果」、助け合い文化の醸成には「返報性の原理」、挑戦とアイデア共有の奨励には「現状維持バイアスの打破」、新奇歓迎の態度を持つためには「確証バイアスの排除」がそれぞれ重要となります。
これらの行動経済学的アプローチを組み合わせることで、心理的安全性を実現し、組織全体のパフォーマンスを向上させることができます。
自身の職場・組織で心理的安全性を実現していきたいという方は、ぜひお試しあれ。
さて、今回はここまでとします。
次回の更新は7/29(月)10:00の予定です。お楽しみに !