皆さん、こんにちは。
本ブログは行動経済学を実際のビジネスに適用していくことを主目的としています。
行動経済学の理論を中心に、認知心理学や社会心理学などの要素も交え、ビジネスの様々なシーンやプロセス、フレームワークに適用し、実践に役立てていきたいと思っています。
9/4の日本経済新聞にこんな記事がありました。
米投資ファンド2社が富士ソフトの争奪戦を繰り広げているという記事ですが、こちらは敵対的買収ではなく、友好的買収のようなので、富士ソフトにとって良い結果が得られればという感想だったのですが、気になったのは記事タイトルにもある「25年の崖」の方でした。
ソフトウェア業界に長くいるので、もちろんこの言葉は知っていましたし、似たような事象、指摘は何度か目にしてきたのですが、ちょうど良い機会でもあるので、行動経済学的なアプローチで「25年の崖」を乗り越える施策を探求したいと思い、コラムにしました。
はじめに
まず「25年の崖」という言葉を改めて説明しますと、これは、2025年までに日本企業が直面する可能性が高い、情報システムやITインフラに関する深刻な問題を指しています。この問題は、主にレガシーシステムの老朽化、IT人材の不足、デジタルトランスフォーメーション(DX)の遅れ、そして技術的負債の蓄積といった複数の要因によって引き起こされると考えられています。以降では、これらの問題について統計データを交えながら解説し、行動経済学を活用した解決策を提案していきます。
レガシーシステムの老朽化
問題の概要:
多くの日本企業が10年以上使用している古いレガシーシステムに依存しています。これらのシステムは、新しい技術やビジネスニーズに対応することが難しく、保守や運用にかかるコストが増加しているだけでなく、障害対応も困難です。
統計データ:
経済産業省の「DXレポート」によると、日本企業の60%以上が10年以上経過したシステムを使用しており、システム障害の約30%がレガシーシステムに起因しています。このようなデータは、老朽化したシステムが企業の運営に深刻な影響を与えていることを示しています。
解決策: 損失回避バイアスの活用
人は利益を得るよりも損失を避けることを優先する傾向があります。この心理的傾向を利用して、レガシーシステムの継続使用がもたらす潜在的な損失(ビジネス機会の喪失やシステム障害の増加など)を強調し、新しいシステムへの移行を促すことが効果的です。例えば、レガシーシステムのリスクを具体的なシナリオで示し、これを回避するための行動を提案することで、変革の必要性を社員に伝えることができます。
IT人材の不足
問題の概要:
ITエンジニアの不足は以前から指摘されていましたが、近年のデジタル化の進展やDX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が高まる中で、この問題が改めて表面化しています。特に、プログラマやテスターといったITエンジニアは「デスマーチ」や相対的に低い評価といった負のイメージがあり、これが職業選択の際の障壁となっています。
統計データ:
IPAの「IT人材白書」(2020年)によれば、2025年までに日本国内で約79万人のIT人材が不足すると予測されています。特に、クラウドやAI、データサイエンスなどの新技術に対応できる人材の不足が深刻です。
解決策: IT人材を魅力的な職業として位置づけるためのアプローチ
ITエンジニアの職業に対するネガティブなイメージを払拭し、魅力を高めるためには、以下の行動経済学的アプローチが有効です。
- フレーミング効果の活用:
ITエンジニアの仕事の「意義」や「影響」をポジティブにフレーミングし、現代社会における重要性を強調します。例えば、エンジニアがどのようにして社会のインフラを支え、イノベーションを推進しているかを伝えることで、プログラマやテスターの役割を再評価します。 - デフォルトバイアスの利用:
新入社員研修や継続的な学習プログラムにおいて、IT技術の基礎を標準的なカリキュラムに組み込むことで、自然にIT分野に興味を持たせます。 - アンカリング効果の活用:
高い給与やキャリアアップの可能性を明示的に示すことで、ITエンジニアの職業の魅力を伝えます。例えば、業界で成功したエンジニアの事例を紹介し、ポジティブなキャリアパスの具体的なイメージを提供します。 - インセンティブの設計:
成果報酬やスキルアップに対する報奨制度を導入し、エンジニアが「デスマーチ」などのネガティブな経験を避けつつ、自己成長に集中できる環境を提供します。 - 社会的証明の提供:
ITエンジニアが企業の成功に果たす重要な役割を示す具体的な事例を共有し、エンジニアリングの価値を社内外に広めることで、職業の魅力を高めます。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の遅れ
問題の概要:
DXを推進している企業は増えていますが、レガシーシステムへの依存が大きな障壁となり、DXの進展が遅れている企業も少なくありません。これが競争力の低下につながり、市場での立ち位置を危うくしています。
統計データ:
デロイトトーマツの調査によると、日本企業の70%がDXの重要性を認識している一方で、実際に積極的にDXを進めている企業はわずか20%にとどまっています。このギャップが、DXの遅れを示しています。
解決策: 現状維持バイアスの打破とナッジの実施
現状維持のバイアスを打破するために、DXの導入を段階的に進め、小さな成功体験を積み重ねることが効果的です。さらに、新しいシステムやツールの使用をデフォルトに設定することで、従業員が自然と新しい技術に適応しやすくなる環境を作ります。
技術的負債の蓄積
問題の概要:
企業が短期的な解決策に依存することで、システム全体の健全性や効率性が低下し、技術的負債が蓄積しています。この負債の増加により、システムの維持・運用コストが高まり、将来的な問題解決がますます困難になります。
統計データ:
技術的負債に関する研究によると、企業のIT予算の約30〜40%が技術的負債の管理や解消に使われており、システム維持コストが平均で20%増加するとされています【4】。
解決策: メンタルアカウンティングの活用
技術的負債の削減を「将来の損失を防ぐための投資」として位置づけることで、社員や経営陣にとって積極的に取り組むべき課題として認識させます。また、技術的負債削減に取り組むエンジニアやチームに対してインセンティブを提供し、行動を促進します。

まとめ
「25年の崖」は、日本企業が直面するIT課題を象徴するものであり、これを乗り越えるためには、戦略的かつ計画的なアプローチが必要です。まず、レガシーシステムの老朽化に対しては、新しいシステムへの段階的な移行を進め、最新技術に対応できる基盤を整えることが重要です。企業は、レガシーシステムのリスクを明確に示し、トップマネジメントの理解と支援を得るためのコミュニケーションを強化する必要があります。
IT人材不足の問題には、ITエンジニアのキャリアパスを魅力的にするための職場環境の改善や、学習・成長の機会を提供することで対応します。また、エンジニアに対するポジティブなイメージを広めるため、成功事例の共有やインセンティブ制度の導入も有効です。
さらに、DXの遅れを解消するためには、全社的なDX推進のロードマップを策定し、小規模なプロジェクトから始めて徐々に拡大していくアプローチが効果的です。DX推進の成功事例を共有し、従業員の意識改革を図ることも重要です。
最後に、技術的負債の管理には、長期的な視点で技術的負債の評価と優先順位付けを行い、定期的な見直しと改善を行うプロセスを組み込む必要があります。これにより、技術的負債の増加を防ぎ、システムの健全性を保つことが可能になります。
これらの戦略を組み合わせて実行することで、日本企業は「25年の崖」を乗り越え、持続的な成長と競争力を維持することができるのではないでしょうか。
さて、本日はここまでです。また次回!